#041('05/04/06)

IWA2005報告 ブライカー社 訪問編

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ようやく日本の射撃界でも、高い評価を得てきたブライカーライフル。
最近、細かい注文や問い合わせが多くなってきたので、2003年の訪問よりわずか2年で再びスイスのブッチュビルにあるブライカー社を訪問することになりました。

ブライカー社


当店としては、IWAを最終日までゆっくりと見学をしてからブライカー社を訪問する予定でいました。しかしブライカー社の希望により、一日早い月曜日の訪問となりIWAも慌しいスケジュールこなす事となりました。
今や日本だけでなく、世界中での評価を高めたブライカー社は、IWAの前後は世界各国からの訪問客で、かなり忙しそうでした。
そのため今年のブライカーさんは、英語の通訳を用意していた程です。

時間いっぱいまで、可能な限りIWAを見学したい私たちは、遅くても月曜日の午後一番にはブッチュビルに到着しないといけません。
ニュルンベルクからブッチュビルまでは鉄道で片道約5時間半。途中3回も電車の乗り換えをしないと、ブッチュビルには辿り着けません。
本来なら日曜日の午後ニュルンベルクを出発して、途中で一泊が理想だったのですが、日曜日の夜も夕食を共にしたミーティングがあり、結局月曜日の早朝に出発しないといけなくなりました。

ニュルンベルクでは暖かい日が続いていたのですが、出発の日の朝は急に冷え込み、たぶん氷点下まで下がっていたのではないか?と思う程でした。
朝3時過ぎに起床してシャワーを浴び、荷造りを終えて朝4時50分にホテルを出発します。そして5時ちょうど、Uバーンの始発電車に乗りニュルンベルク中央駅まで向かいます。
「この時間だと電車はガラガラかな?」と思いきや、そこは朝の早いドイツ人。座席の半分以上が埋まっていたのには驚きました。

早朝のニュルンベルク中央駅とIC2164


ニュルンベルク中央駅5時38分発のカールスルーエ行きIC2164(インターシティー)に乗り、途中のシュツッツガルト中央駅で電車を乗り換えます。
シュツッツガルトからは8時4分発の国際列車、ICE181(インターシティー・ヨーロッパ)に乗り一気にスイス国内のビンターチューア駅まで南下します。
ここからは東に向かい、あと一回乗換えでブッチュビルまでたどり着けるのですが、ニュルンベルク中央駅の窓口ではスイスの小さな町「ブッチュビル」の駅名が検索できず、その手前のビル駅までしか切符を買うことが出来ませんでした。

ビル駅


ビル駅での乗り換え時間は、わずか10分。この間に駅の外まで出て、ブッチュビル駅までの切符を買わないといけません。私たちはユーロ通貨しか手持ちがなく一度スイスフランに換金、もしくは窓口に並んで切符を買わないといけないのかな?と思いきやそこはさすが金融の国スイスです。自動券売機にユーロ用の投金口まで付いています。もちろんおつりはスイスフランでした。

ブッチュビル駅


よくわからない券売機の表示でしたが、なんとか切符を購入し、大急ぎで重いスーツケースを転がしながら階段を下りたり上ったり。息を切らしながら出発直前の列車に飛び乗り、
ほぼ予定通り11時15分、ブッチュビル駅に到着出来ました。

ブッチュビル駅周辺


ブライカー社に到着すると、すでに3人の訪問客がいます。
この内の一人は、ヨーロッパの有名なバレルメーカーの方で、テスト用バレルの納品の打ち合わせに来ていた様でした。
ブライカー社は今、スイス製のクロモリバレルを使っています。
このバレルは、命中精度と耐久性には全く問題が無いのですがブルーイング(鉄の表面を黒く染めて、錆び難くする)液がバレルの中に入り、銃身精度を落とす事を嫌うスイス人はブルーイング処理をしない為、すぐに錆びが発生してしまうそうです。
そこで「錆びにくく精度の良いステンレスバレルを、ブライカー社は探している」との事でした。

先に来ていた3人のグループと通訳、そして私たちを含め総勢7人は、近くのレストラン(本当に美味しかった)で昼食を一緒にとった後、3人のグループは先に帰って行きました。
彼らが帰った後ブライカーさんは「今使っている銃身は、錆びる以外はまったく問題が無いので、新しいメーカーの銃身についてはとりあえずテストをするだけ。もしスイス製の銃身より新しいメーカーの銃身の方が際立って良かったら、新しいメーカーに替えるかも知れない。しかしまだ、とうぶん先の話です」と、こっそり教えてくれました。

今回のブライカー社訪問を大きく手助けしてくれたのが、陽気な通訳のゼップさん(ドイツ語読みのファーストネーム)はドイツ語がペラペラのアメリカ人で、一年の半分はフロリダで生活をして、残りの半分はスイスでバカンスを満喫しているという、とっても羨ましい人です。
ゼップさんの車のナンバープレートはフロリダナンバーだったので、どうもフロリダからスイスまで自家用車で来ていた様ですね。


さて昼食を終えて会社に戻ると、早速仕事の話に入ります。
まず一番に見せてくれたのが、木製ストックに乗った22口径ライフルの「チャレンジャーライフル」です。

ブライカーチャレンジャー ウッドストック


このストックはまだ試作段階ですが、なんとブライカーさんが製作したオリジナルでストックの材質は、「カナディアンメイプル」を使っています。

実際に手にとってみると重量バランスは、ドイツ製の銃よりはるかに日本人向きなのでは?と思うくらいバランスが良く、持っただけで「この銃は当たる!」と予感がします。
ストックの裏面には、ベディングスクリューの部分からグリップの後方まで、補強のためアルミブロックが埋め込まれています。

補強の為のアルミブロック


このアルミブロックは機関部と直接にコンタクトさせるのでは無く、機関部はカナディアンメイプルとコンタクトさせているのです。
このカナディアンメイプル素材は、上からは機関部、下からはアルミブロックとベディングスクリューを締め付けるとサンドイッチになるという仕組みです。
この方法を採る場合、柔らかいクルミ材だと簡単に潰れてしまい、ベディング面は簡単に歪みが出てしまいます。その為クルミ材より硬いカナディアンメイプルを使ったのでしょう。

木製ストックのベディング面


では何故、最初に木製ストックの製作に至ったかと言うと、ブライカー社のスタッフでもあるマーセル・ベルゲ氏が「発射時の反動が固いアルミストックを使いこなす事が出来ず、いまだにアンシュッツ社のクルミストックを使っている。木のストックの方が発射時の反動がマイルドで、マーセル・ベルゲの好みに合っている」との事です。
また「今まで色々なメーカーのストックにブライカーライフルを乗せてきたが、シュミットッストック以外はどうしても細かい部分の設計が違うため、他社のストックに乗せる場合は細かい神経を使い、なおかつ手直しもしないといけなかった。また銃全体のバランスも決して良くなかったので、オリジナルを作ってしまった」との事でした。
また「木製ストックが上手く出来上がれば、次にはアルミストックの製作にも取り掛かる」との事でした。もしアルミストックを作ったとしても、ベディング面に硬い木を挟み込む予定という事です。

実際に当店に入荷したブライカーライフルを見ても、日本人にとっては少しトリガーが遠かったり、ストックが長すぎたりで困っている旨を伝えると、小柄で陽気なゼップさんも助太刀してくれます。「俺も同じで腕が短い。この銃は俺も昨日撃ったけど、ストックが長すぎだ。だから当たらなかったんだ。もう少し短くしてくれないと、俺はこの銃を使わない」とすばらしいフォロー。
昨日の日曜日には大会があったらしく、一緒に参加したゼップさんはどうも、伏射で599点を撃ったブライカーさん(もちろん試作のオリジナルストックを使って)に負けたのが、そうとう悔しかった様です。

フック付きスーパーグリップ


それから次に注目したのは「スーパーグリップ」という名前の、ブライカー社オリジナルのゴムラバー付きバットプレートです。
「フック部はネジで簡単に取り外せるので、フリーライフル用としてだけでなく、空気銃などのスタンダートライフル用としてもお使いになれます。また構造はいたって簡単なので、セッティングも簡単です。したがって射撃姿勢も作りやすい」とブライカーさんは話していました。

フックを外したスーパーグリップ


以前は何処のメーカーでも採用していた、弧を描く様に上下をするタイプのバットプレート。この構造は生産コストが掛かりすぎるためか?現在は垂直に上下する物ばかりで、すっかり見なくなったタイプですがもちろん、ファインベルクバウやアンシュッツにも取り付けが可能です。
実際に私の肩にバットプレートをはめて見ると、バットプレートの上下幅がかなり大きく一番縮めて貰ってもまだ大きい。「ちょっと日本人の肩にはあわないかな?」と首をかしげていると、そこでまたゼップさんがブライカーさんへ、的確なアドバイス「スイス人はみな体が大きいからこれでもいいが、我々は体が小さい。あと2cm縮めなさい。ついでに俺のライフルも2cm縮めてくれ。」ですって。本当に頼もしい限りのゼップさんでした。
これでブライカーライフルもゼップさんのお陰で、すばらしい日本人仕様に出来上がるのでは?と思います。

ストックカラーも選べると言う事で、どんな色があるかをブライカーさんに聞いていたら、横からゼップさんが「ハインリヒ(ブライカーさんのファーストネーム)はブルーが好きなんだ。ブルーがブライカーカラーなんだ。見てみろ、このストックもブルー。ジュウタンの色もブルー。着ているシャツもブルー。おまけにこの電卓までブルーだ!」とみんなで大笑い。「それでは我々のオーダーも、ブライカーカラーでお願いします」と伝えました。

今回の訪問で22ロングライフルのチャレンジャーライフルを1丁と、6mmノルマBRのセンターファイヤーライフルを1丁、オリジナル木製ストック付きをブライカーカラーでオーダーしてきましたので、いち早く手に入れたい方がおりましたら、すぐにでも当店に予約を入れてください。

ブライカー社は工場だけでなく、射撃用品を販売するショップも持っています。
そこをキョロキョロ見回していると、面白いスリングが目に付きました。

ブライカースリング


このスリングには、3ヶ所の大きな工夫が施されています。
@スリングの長さを微調整する伸縮金具が付いています
これで据銃中に姿勢を大きく崩さずに、スリングの長さを変えられます。

伸縮金具


A先述@項の伸縮金具と、腕に上腕部に巻きつける部分の間に入る環が入っています
これはスリングを張る時に、一直線に張れるため、上腕部に負担が掛かり難い(痺れやパルスを防ぎやすい)構造となっています。

環の位置


B上腕部に巻きつける部分の張力を調整することができます
ラッチェット部品を使い簡単に締め付ける事が出来ます。もちろん外す時もワンタッチです。
このスリングは面白いと思って、腕に巻きつけているとセップさんが「一本、持って帰っていいよ。このスリングは、逃げようとする彼女の首に巻きつけ、引き止めておくのに便利だ」と言うので「なら私はうちの・・・に使う」と答えておきました。できたらその写真を、ゼップさんに送ってみたいのですが・・・は絶対に協力してくれないと思います。

張力を調整するラチェット


最後は簡単に、工場見学をさせて頂きました。
何丁も組みあがった、ブライカーライフルが並んでいます。
その中にすごい物を発見しました。もう皆さんご存知の、あの有名選手の名札の付いている銃まであるではないですか。
今年のシーズンでどの程度、ブライカーライフルが世界で活躍するかが本当に楽しみになりました。

ゼップさんのおかげで、楽しくミーティングも終わり今晩の宿泊地である、ビルのホテルまで、ブライカーさんに車で送って頂きました。
その車の中でブライカーさんは「先週は異常気象で、気温が氷点下20度まで下がっていた。今日は初夏の様に暖かくて良かった」との事です。
私たちはニュルンベルクに続き、ブッチュビルでも陽気に助けられた様です。
これからもブライカー社とは、良い関係を続けて行きたいと改めて思った、いい一日でした。

夕方はまだ明るかったので、少しビルの町を散策してみました。
何枚か写真を撮りましたのでご覧ください。

ビルは坂道が多い街です。

坂道


雪が降ると坂道を登れなくなるのか?建物の下が回廊になっています。

回廊


小さなハウプトマルクト。

ハウプトマルクト


天気が悪かったので残念ですが、今年は見えませんでしたが本来は、この先にチロルアルプスが見えます。
2003年に、ブライカーさんに連れて行ってもらった、あの山です。

チロルアルプス


この町の交差点には、信号がありません。ほとんどの交差点がロータリーになっています。
歩行者が道を渡るときは、強引に道に突っ込まないと車が止まってくれません。

ロータリー


ビルという町は、商店街が6時半に全て閉まってしまいます。
この時間を境に商店街は、人通りがぱったりと無くなります。

商店街


ビル周辺は、酪農が盛んなのか?空気が少し匂っていたのが印象的でした。


3回に分けての報告でしたが、これにて今回のIWA2005報告を、全て終了させて頂きたいと思います。
どうもありがとうございました。


 
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